初恋と海

中学の同期会開催のハガキが届いた。
今まで幾度か誘いがあったが参加できずにいた。
その地には特別の思い出があったが、機会に恵まれなかった。


父の仕事で転校が多かった私は、誰一人友人のいない中学へ入学した。
東北は津軽の日本海に面した小さな港町で、卒業までの3年間を過ごすことになった。 
    
幼少から家庭環境に恵まれず、非行に走りかけていた少年がその町でひとりの少女に出会い、淡いときめきを覚えた。
嫌われたくない、良く思われたい、そんな気持ちが芽生え、育ち、少年を立ち直らせた。

彼女に出会わなければ今の自分はなかったかもしれない。
そんな人生の恩人が今もそこに住んでいる。


町は海岸段丘の上にあった。
鉄道が走る1段目と学校が建つ2段目は険しくそそり立つ高い断崖でさえぎられ、登校はつづら折りの坂道を幾度もスイッチバックしながら登ってゆくしかなかった。
きつい道だったが、段丘の上から見下ろす雄大な自然は、傷つき荒れていた心を癒してくれた。

恋に芽生えた少年は朝早く家を出て、つづら折りの頂上にある手すりから身を乗り出し、登ってくる生徒達の中に少女の姿を探すのがいつしか日課になっていった。

そこからは海岸線に沿ってうねうねと走り来る列車や、白い潮の泡を長く引きながら港へ帰る漁船、それにまとわりつくように飛び交うウミネコの群れなども見えた。
晴れた夏の海は強い陽光に反射して、無数の魚が海面で飛び跳ねているかのようにキラキラ輝いている。
そんな景色を眺めていると時間を忘れ、心が鎮まっていった。


いただいた5年前の同期会の集合写真で彼女は爽やかに笑っている。
「今回はかならず参加してくださいね。」とでも言っているかのようだ。
昔の面影をわずかに残す微笑みの向こうに、あの夏の海がパノラマのように広がって見えた。

今回はとってもメルヘンチックな文章になってしまいました^^)

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