Sさんの「ベロ日記」

治療に来られたSさん、昨日病院で褒められたと
ニコニコしながら話してくれました。

病院で測る血圧が家での数値よりいつも高いので、記録してある手帳を持っていったのだそうです。
医者はフンフンと頷いてみていましたが、首をひねりながらSさんに尋ねました。

「この奥が剥げてるとか、色がどうだとか書いてあるのは何のこと?」
「それは舌のことを書いてるんです。」
「舌に、興味があるの?」
「体調によって舌が変化するんです。1日2回見ています。」

手帳には、日付、天候、血圧、舌の状態、体調、その日の出来事も書きとめて…。

10年間続けていることを聞いて、医者はウンと褒めてくれたというのでした。

Sさんは10年前から、週1回欠かさず治療にみえています。
慢性の腰痛で、ずいぶんと苦しまれたようでした。
いい治療院があると聞けば、他県にまで出かけたそうで、少しずつ楽にはなってきているもののまだまだ本調子ではない、
そんな状態でここにこられました。

私は治療前に、必ず血圧測定、舌診(舌の状態を観察すること)、腹診(おなかを触って状態を調べること)を行います。
初診時だけでなく、毎回です。これに加えて問診をして治療がスタートします。

「どうして、いつも舌を見るのですか?」
10年前、彼女は、こう質問をされました。

他の患者さんからも、たまに聞かれますので、その時はこう答えます。

「舌は、内臓の鏡です。からだの内部の状態がよく現れます。
からだは常に動いていますから、先週と今週の舌は違っています。
場合によっては朝と夜でも変化してますよ。だから、必ず診てから治療するのです。」

実際、彼女の舌は当初はひどい状態でした。

「毎日、鏡に向かったとき、忘れず舌を見る癖をつけてください。
毎日見続けていると理屈ぬきに、何となくわかってきますから。」
と、話したと思います。

1週間後、彼女が興奮気味に話されたのを覚えています。
「先生、ホントに朝と夜では舌、変わるんですね、びっくりしました!」

まさか、あれから10年間手帳に書き続けていたなんて…。

「私のベロ日記だねぇ。おかげでこの頃はベロ見て、少し疲れてるかな、
今日は無理すまい、なんてやってるよ。腰痛も出ないからありがたいよ。」

そう、いって笑われた。

……、頭が下がる思いです。

こんなに、前向きに懸命に努力してくれてるSさんの話を聞き、
こちらも襟を正して、治療に取り組んでゆかねば、そう強く思いました。

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